東京工芸大学 システム電子情報学科 レーザ制御研究室

Laser Control Laboratory

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研究テーマ詳細 (説明)

研究室の研究テーマ詳細です

○まえがき

我々の研究室では、おもに以下の4つの研究に取り組んでいます。

  1. 周波数安定化レーザの開発
  2. 周波数標準スペクトルアトラスの構築
  3. 高感度環境ガス計測装置の開発
  4. レーザを用いたプラズマ診断分光計測

これらは全てレーザによる分光計測を基盤技術として用いています。各研究テーマの説明に入る前に、理解促進のために、分光計測の基本について以下に述べます。

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    ○分光計測とは

 物質に光を照射すると、特定の周波数に対して光を吸収したり、吸収した光を放出したりすることがあります。例えば、原子や分子などの物質が図1上のように2つのエネルギー準位を有するとします。2つの準位差に相当するエネルギーをもつ光を照射すると、物質は準位1から準位2へとエネルギーの高い状態に遷移します。そのとき光子が吸収され物質を通過した後の光強度は弱まります。ここでは気体状の物質を原子と仮定します。図1最下段は、吸収スペクトルを表しています。スペクトルはある幅を持って観測されます。原子が周波数f0で光を吸収し、それ以外の周波数では全く光を吸収しなければ、スペクトルは幅のないない線上になるはずですが、実際には幅があります。図1中段は、容器に閉じ込められた気体状の試料の様子を示しています。個々の原子は周波数f0の光を吸収しますが
原子は容器の中で活発に動き回っています。電子の速度は、ボルツマン分布を示します。
左側から周波数f0の光を照射した場合、動いている原子から見るとレーザ光の周波数はドップラー効果のためf0と異なって見えます。したがって、原子の速度分布に応じて光を吸収するので、吸収スペクトルに幅が生じます。何らかの方法で、動いている原子を止めたり、あるいはレーザ光に対して垂直方向の速度成分のみを持つ原子を選択的に励起できれば、幅のない非常にシャープなスペクトルを得ることができます(実際にはどんな方法でも幅を完全にゼロにすることはできない)。これを“ドップラーフリースペクトル”と言います。

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エネルギー準位

○周波数安定化レーザの開発

光と電波は本質的に同じものです。しかし、電波は目に見えません。例えば、携帯電話に使用される電波の周波数は1.5G(ギガ)ヘルツ2.0Gヘルツなどと言われます。周波数と波長は対の関係にあります。周波数2.5Gヘルツの信号の場合、波長は15cmほどです。一般的に波長が短くなればなるほど、すなわち周波数が大きくなればなるほど、電波に乗せることのできる情報量を増やすことができます。この波長をどんどん小さくしていき(周波数をどんどん大きくしていく)、0.8ミクロン程度になると、目に見える光となります。この領域の周波数は、350T(テラ)ヘルツ以上で、有効に制御できれば、莫大な情報を乗せて伝達することができます。350T(テラ)ヘルツと言うのは、1秒間に350兆回(14ケタ)変化する電磁波です。どんなに安定な光も、この周波数が揺らいでいます。14ケタのうち、下6桁が揺らいでいれば、情報伝達能力は、8ケタの周波数を有する電波と同じことになります。この光の周波数を安定化するには、安定化基準が必要です。不変な物理量を基準とすればよいのです。ところが、光の周波数に相当する14ケタ、15ケタの精度で不変な物理量などあるのだろうかと思われます。 自然界とは本当に不思議なもので、原子や分子のエネルギーは、かなり高い精度で決まっています。図1上のように、原子や分子は電磁波を吸収するとエネルギーが高い状態(励起状態と言う)に変化します。励起状態にある原子・分子はある一定の時間が経過すると、電磁波を放射して、より安定なエネルギーの低い状態(基底状態と言う)に戻ります。このような、原子・分子が電磁波を吸収したり放出したりする現象を利用して、レーザの周波数を安定化することができます。


図2は周波数安定化の原理を示しております。
原子や分子のエネルギー準位に相当する周波数を含む範囲でレーザ光の周波数を掃引すると、前述したとおり、吸収スペクトルを観測することができます。吸収スペクトルをフィードバック装置で1次微分信号などの弁別信号に変換し、コントローラにフィードバックすることで吸収スペクトルの中心周波数にレーザ周波数をロックすることができます。現在われわれの研究室では、セシウム原子の2光子標準スペクトルを用いて12桁の安定度を有するレーザの開発に取り組んでおります。

原理
図2 周波数安定化レーザ
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    ○光領域の周波数標準に関する研究

上記で、光は周波数を有することを述べましたが、光の周波数をどのように測定するのでしょうか? マイクロ波などの電気信号の周波数は、周波数カウンタなどの計測装置で測定することができます。周波数カウンタは基準信号の周波数(内部に有する場合と外から導く場合がある)と被測定信号とを比較することにより、周波数を決定します。光領域にもこのような周波数カウンタが存在しますが、汎用計測装置として販売されているカウンタの絶対的な周波数測定精度は5〜6ケタ程度です。
周波数の絶対値を決める別の方法はないでしょうか? 光周波数を測定するために、スペクトルアトラスを利用する方法があります。分子の吸収スペクトルを測定し、データベース上のスペクトルと照らし合わせることにより、光周波数を決定する方法で、レーザが発明される以前から伝統的に行われている方法です。言わば、吸収スペクトルを光の物差しとして利用する方法です。これは、周波数精度は7〜8ケタ程度であますが、実用的には十分な精度です。最近、可視領域にはさらに良好なスペクトルアトラスが発表され1ケタ以上精度が向上しました。しかし、近赤外線領域にはあまり精度の高いアトラスがありません。われわれの研究室では、近赤外線領域にスペクトルアトラスを構築する研究を行っております。図3には、われわれが測定したICl, IBr, I2の3つの分子スペクトルを示しました。

スペクトルアトラス
図3 近赤外線領域のスペクトルアトラス

600〜900nmの範囲にわたり膨大な数のスペクトル(数万本)が存在しており、一つ一つのスペクトルの周波数を測定しておきます。一度測定すれば、スペクトルが物差しのメモリの役目を担うことができます。
このデータベースの絶対周波数精度は8ケタ程度あり、さらに精度を向上を目指し、ドップラーフリースペクトルが得られるセシウム金属ダイマーおよびルビジウム金属ダイマーを用いたスペクトルアトラスの構築を行っております。
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    地球温暖化ガス計測

最近では、環境問題に非常に高い関心を抱いている人が増えています。我々の研究室でも、複数の微量ガス濃度を高精度にしかもリアルタイムで観測するための手法を開発するとともに、環境汚染および地球温暖化にかかわる諸問題を解決するための基礎データを集積することを目的として研究を推進しています。

CO2振動回転スペクトル
図4 二酸化炭素の振動回転スペクトル


ここでは1.5μm帯の発振波長を有する半導体レーザを用いた、二酸化炭素やメタン、一酸化二窒素などの地球温暖化ガスの濃度計測に関する研究について説明をしたいと思います。二酸化炭素やメタンなどの分子は、振動および回転のエネルギーを有しており、この振動回転状態の変化をスペクトルとして観測したものを振動回転スペクトルといいます。この振動回転の強いスペクトル(基本音スペクトルという)は3μmより長い波長の赤外線領域に存在します。しかし、赤外線領域のレーザは限られており、また、高価である為、手に入りにくいという問題がありました。一方1.5μm前後の波長帯のレーザは、光通信に利用されていることもあり、手に入りやすくなっています。幸い、前述の振動回転スペクトルの高次音や結合音スペクトルはこの領域で測定することが可能で、感度の向上を図ることで実用になると考えられます。図4はレーザの波長を1.565?1.585μmの範囲で掃引した場合の、二酸化炭素の振動回転スペクトルを示しております。この櫛(くし)状に見える1本1本がスペクトルを表しています。図5には、二酸化炭素の量を一定にして空気を混入したときの吸収スペクトルを示します。図4のR(18)とぁべリングされたスペクトルの拡大図です。スペクトルの高さが異なっておりますが、面積は一定であり、二酸化炭素の濃度が面積より算出できます。現在検出素子の改良やデータ処理の方法を工夫して検出感度の向上を目指しています。

CO2吸収スペクトル
図5 二酸化炭素の吸収スペクトル

今は二酸化炭素と一酸化窒素およびメタンガスを対象としておりますが、NOx, SOxなどの酸化物やエタン、エチレンなどの炭化物あるいはダイオキシンやハロゲンなど超有害物質などを対象ガスとすることができます。

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    ○レーザを用いたプラズマ診断分光計測

プラズマを用いて金属や金属酸化物の薄膜を生成するにあたり組成や結晶性を制御すると、電気的、化学的、光学的に優れた特性を持つ材料を作ることができます。この材料生成プロセスにおいて、原子または分子状ラジカルは高い反応性を有しており、製膜時に重要な役割を担っています。プラズマ中では原子・分子は極めて高いエネルギー状態にあり、複雑な振る舞いを示しています。本研究では、レーザ光と原子・分子との相互作用を利用する分光学的手法を、この高エネルギープラズマ状態を解明するため適用します。このため周波数掃引できるレーザなどを用い、反応性プラズマを構成するラジカルや不安定分子種の構造や高エネルギー状態における分布密度をスペクトル解析により解明し、プラズマ絶対温度や原子温度の計測、解離度の測定などプラズマダイナミックスを解析することに取り組んでいます。

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